檸檬

 

 

二月六日


「これは、新しい国を作る。という意味です。」

捲られた瞬間、私は息を飲みこみ、こう言った。

彼は少し考えていたようだったが、自ら捲ったカードを受け入れるのに、
それほど時間はかからなかった。

「どうしたらいいの?」
「壁に貼ったらいいの?」

瞬間、私はこの場所でカードが自由に連奏を始めてしまう前に
ある程度、読み解かなくてはならかった。


〜 ある日、息子が生まれ育った母体から離れ、
独力で新たな国を作り、やがて新しき国は栄える。
一方、母体は萎みはじめ、子孫たちの記憶の中で煌やかに浮上し始める。〜


神話の世界だと、実に百年以上かけて起こる出来事だ。

これが、ハツクニシラスである。

まさに、この会社について感じていることでもあった。
ここは、どんな人でも育ち、どんどん外へと送り出してしまう、特別な場所。
相変わらず社員は少ないが、先輩たちの軌跡が社外のあちこちに残されていて、
社内では後輩たちに、あっと言う間に追い抜かされる。

今は編集システムも一台のパソコンに集約され、会社自身の存在も常に変化を迫られている。
グローバル企業が動く時、小さな歯車である小さな人間が、相変わらず高速で回っている。
社長の健康も心配だ。

もう一種類のカードも、縛ったゴムを一緒に解いてもらうほどだったので、
ほとんど説明をする間もなく3枚が捲られた。

 異次元生命が、近所の誰かだったりする。(本書 P65 集団の劇性)
 


「これもまさしく、来る者拒まずの社風で、
 どんな人間であろうとも、怪物のように逞しく育て、
 競争の激しい映像業界へ人材を送り続けている、
 この会社(社長)のことだと思います。
 いつも、二足、三足のわらじを履け。と仰っていたこともよく覚えています。。。」


このような感じで、1枚目から簡単に読んでいったところ、
彼は「これが一番嬉しい。」と、みんなのためのカードを選んだ。

念のため、これは本書の身体(言葉)からできたカードなので、
僕も一緒にカードを捲って共有したことになる旨も伝えた。

最後に、会社のどこを写真に収めたらいいかと考えあぐねていると、
彼は黙って玄関のポスター前に立った。

ここは、高天原。

私は、天照らす男(アマテラスオトコ)のおなかにカードを配置した。


「俺が鄙(ひな)になる?
 それより、みんな元気でやってくれ。
 でも、お互いさまだよな。たまには恩を返せよな。」


なんだか、いつもの調子で言っているような気がして、泣いた。


そして、、、

本日、快く引き受けてくれた「ハツクニシラス」 のカード。
これは昨年の暮れ、この地を去った男の未来のカードだった。
もしかして、二人は繋がっているのかもしれない。と考えると、少し暖かい。

今日のカードは、とても重かった。





現代の会社組織であれば、どこにでもあるような継承と望郷の1フレームではあるが、
今ここにおいて「檸檬」の幻想力により、「神話発生の原風景」と名称する。

この地にも本書がある。